おそるべし画家ルオー

tureusa2008-08-05

前にも書いたけど、ルオーの黒は生と死だと思うんだ。ということで、心待ちにしていた出光美術館ルオー大回顧展に行ってまいりました!
ルオーというと、いわゆる宗教画家として有名でありまして、今回は、キリストを題材にした連作「受難」を中心*1に、かなりボリュームのある展覧会で見ごたえたっぷり。かくいうわたしは宗教に詳しくないわけだけど、でも、この人の描くキリストがものすごく好きだ。というか、この人の描く人間*2がものすごく好きだ。デフォルメされ、大胆に黒く縁どりされた輪郭と、どんよりと深く沈んだ色調で描き出された人物たちは、生きることの美しさ、おろかさ、苦しさ、そこで生まれる愛、怒り、悲しみを刻み込んでいて見飽きることがない。そして、1枚の作品に対する執拗なまでの技巧的アプローチ。版画に幾重にもほどこされた技法は、奥行きと重厚さを見事に生み出しているし、後期の油彩画に至っては1枚1枚がほぼ彫刻の粋に達するほど厚く塗り込められていてすさまじいものがある。ひとつの作品にあそこまで魂を注ぎながら人間の生き様を描写できるのは、ルオーの敬虔なカトリック信者としての信仰心とキリストへの深い崇拝があってこそ踏み入れることができた深い精神領域のなせるわざなんじゃないかなあ。特に、連作「受難」で対をなす表紙と本扉。そこにあるキリストの表情がねえ、本当にねえ、ま じ ヤ バ い 。鳥肌たつ。なんという慈しみ。侵すことのできない神聖さ。いやそりゃキリストなんだから神聖なのは当たり前なんだけど。原罪とか贖罪とか?そういうのよくわかんないけど、あの顔を見ると、たまらない気持ちになる。懺悔しなければならないような。1枚の作品でこれほどまでに時空や静寂すら内包できるものなのか。なんなんだルオー…。
本当に観るたびルオーにはやられっぱなしだ。悔しい。

*1:戦争を題材にした版画の連作「ミセレーレ(憐れみたまえ)」もすごい

*2:どこか憎めない、隣人のような親しみあるキャラクターが多い。そして、時に卑しく、時に神々しい表情にぐっとくる。サーカスを題材としたものも多く描かれているんだけど、特にピエロはとてもよい